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「南京事件 兵士たちの遺言」のデタラメぶり

昨年10月4日、NTV系列で「南京事件 兵士たちの遺言」が放映された。これまで南京事件は度々報じられてきたし、78年も前のことなので新たな発見はないだろう。どんな番組が制作されたのかと思いながら見ると、やはり新たな記録などはなく、これまで知られていたことを使って制作しただけのものだった。いってみれば南京事件は事実だと主張するプロパガンダである。
番組の骨格となっているのは証言集『南京大虐殺を記録した皇軍兵士たち』で、これは平成8年に刊行され、朝日新聞や週刊金曜日が度々取り上げていた。すでに20年近くも前のことで、そこに新たな発見が加えられているのかといえば何もない。

付属的に使われたのが昭和63年に毎日新聞に発表された写真。こちらは『南京大虐殺を記録した皇軍兵士たち』からさらに8年さかのぼる写真であるが、これも新たに加えるものがあったわけでない。ほかに証言と称するものが流されたが、証言者の身分が明らかにされていない。これでは公共の電波の無駄使いではないのか。これが番組を見た人の感想ではなかっただろうか。

それから10ヵ月、この間、「南京事件 兵士たちの遺言」はギャラクシー賞、平和・協同ジャーナリスト基金賞、メディア・アンビシャス賞、放送人の会を貰ったという。一部の世界では評価されたようだ。そのせいか、番組制作に関わった一人がその過程を一冊の本にまとめ、9月に刊行した。清水潔『「南京事件」を調査せよ』(文藝春秋)である。

一読すると、番組を見たときに起きた疑問がたちまち氷解した。彼らは南京事件をよく知らない。もちろんその前提になる軍事知識も十分に持ち合わせてない。その程度の知識で一時間番組を制作したのである。著者によれば、自分自身で取材する調査報道にこだわり、事実に一歩でも近づこうとした、というのだが、知識がないため、これまで明らかになったものをつなぎあわせて作らざるをえなかったのである。
かつてNHKが「ドキュメント太平洋戦争」を放映した。ドキュメントと謳い証言をつなぎあわせた番組だが、証言者の多くが放映を見て怒った。証言はNHKの意図に合わせて編集され、発言趣旨と逆に使われていたのである。そんな番組でも文化庁平成5年度芸術作品賞(テレビドキュメンタリー部門)を貰った。「兵士たちの証言」もいくつか賞を貰っているが、賞を貰ったからといってまともというわけではないのである。
制作者が南京事件の知識を持ち合わせていない例を2つ挙げる。
ひとつは朝日新聞の今井正剛記者の手記「南京城内の大量殺人」を取りあげていること。今井記者の手記は朝日新聞社史でも引用され、南京にいた記者の唯一の貴重な証言とされていたが、手記は剽窃からなっていることが明らかになっている。手記を判断する力がないのは仕方ないとしても、手記が剽窃だという論評も読んだことがないのだ。
もうひとつは南京の人口。10数万人の南京で30万虐殺はできないとの主張に対して、城内に10数万人、周辺人口は100万人としている。だから三十万虐殺はあったと主張したいらしい。
南京市は、城壁に囲まれた部分と、城外の丘陵や田畑の部分とからなる。首都南京市といっても8割以上は丘陵や田畑なのである。それでは、市民の数はどれくらいかといえば100万人で、その80万人以上が城内に住んでいた。日本軍が南京を攻めたとき、城内に住んでいた多くは疎開、城内に残ったのは20万人ほどであった。市民のほとんどは南京市から去っていたのである。

番組ができたとき報道局長以下多人数がチェックしたという。制作担当者だけでなく局の誰も基本知識がなかったのである。
『「南京事件」を調査せよ』は270頁の本だが、その1/4以上は南京事件と関係ない自己主張である。出版社のちらしに「戦争を知らないからこそ書けたルポ」とある。出版社はどの程度の本か知っていたようだ。

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