「東京新聞」が六月二十三日と三十日付の二回にわたり「南京事件 『虐殺』報道を検証」という記事を掲載しました。
著者の上丸洋一氏は、十七年まえ朝日新聞が「新聞と戦争」を連載したとき南京編を担当した記者です。「新聞と戦争」は、かつて新聞が軍部に迎合していたとか、当時報道していなかった南京事件のキャンペーンを繰りかえしている、という批判に対するためのものでしたが、批判に応えた記事ではありませんでした。上丸氏は四年前に朝日新聞を辞め、昨年十月には「新聞と戦争」の延長線上にあるものを「南京事件と新聞報道」として朝日新聞出版から上梓しています。
その著書「南京事件と新聞報道」の帯には「書かれていた虐殺の光景」とありましたが、そういった記述は紹介されていません。今回の「東京新聞」の記事でも「都新聞に事実の記載あった」とタイトルがつけられていますが、「眼の前で敢ない最期を遂げる敵兵」と敗残兵の処断を簡単に紹介している記述があるだけで、それは戦闘行動であり、市民虐殺や三十万人虐殺を記載した記事を紹介しているわけでありません。
どちらも手に取って読めば、事件を証拠だてる報道がされていたわけでないことがわかりますが、キャッチフレーズやタイトルにより南京事件があったとする空気をつくることが目的なのでしょう。