今年1月17日、突然、中国外務省報道官がアパホテルに置いてある「理論近現代史学」は南京大虐殺を否定していると批判しだした。アパ書籍問題の始まりであるが、すでにそのころ中国で最大手の旅行予約サイトからアパホテルの予約はできなくなっていた。それに対してアパホテルは、書籍は事実に基づいた歴史を記述したもので撤去はしないとただちに応えた。
応酬が続いている19日、NHKが夜のニュースで、2月に開かれる冬のアジア大会の組織委員会が選手団の宿泊先のアパホテルに本の撤去を打診した、と報じ、翌日の朝日新聞も同様のことを報じた。まったくの虚報だったが、これによってアパホテルの書籍問題は中国との問題にとどまらず、冬のアジア大会、あるいは韓国との問題まで拡大した。
韓国選手団の一部は冬のアジア大会でアパホテルに宿泊する予定でいたが、書籍は慰安婦の強制連行を否定している。NHKのニュースに煽られたのか、韓国も問題にしはじめ、25日には大韓体育会が大会組織委員会に国際交流という大会の趣旨にそぐわないとの理由で書籍の撤去を求めた。追いかけてアジア・オリンピック評議会が大会組織委員会に中国選手団をアパホテルに宿泊させないように求めた。
すると、今度は誤報が流された。
アパグループの代表で「理論近現代史学」の著者でもある元谷外志雄氏は、問題が起きると、書籍は撤去しないと明言し、2年前からホテル全館を借り上げる選手村の形の話に限り、利用者の要望に応えるという方針を取ってきた、と語った。そこだけをとらえて1月26日の朝日新聞は「本撤去 アパが約束」との見出しを掲げ、アパが屈したように報じた。まもなくして、中国と韓国の選手団はアパホテルからほかのホテルに変わることが決まった。これが一連の顛末である。
虚報、誤報が続いてなかなか真相がわかりにくかったが、中国と韓国の選手団がアパホテルを去ったことからわかるように、アパホテルが書籍を撤去したわけでなかった。
NHKはアパに取材もしないで虚報を流していること、朝日新聞も意図的な報道をしていることがわかり、これまでのようにNHKや朝日新聞により外交問題が拡大されていることが明らかになった。
それでは、アパホテルにはどんな不利益がもたらされたのか。
アパホテルは日本最大のホテルチェーンで、これまでホテル利用者には知名度があったが、広く国民に知られてはいなかった。今回、新聞やテレビがアパ書籍問題を報じることにより、多くに国民がアパホテルを知るようになった。今回の騒動で、アパ全体の5パーセントに当たる中国人が宿泊を取りやめたが、アパの知名度が上がったため新たな利用者が出て、落ち込み分を補った。さらに中国人と間違えられることを嫌っていた台湾人が中国人がいないというのでアパを利用するようになった。
この結果、1月から3月までのアパの稼働率と売上高はこれまでの最高記録を達成した。
6月2日のアパのパーティの席上、元谷外志雄氏はこう話した。
「2020年の東京オリンピックでも書籍は撤去しません」
アパの完全な勝利といえよう。
アパホテルは「本書籍の記載内容の誤りをご指摘いただけるのであれば、参考にさせていただきたいと考えています」と発表したが、中国は反論もしなかった。4月17日に亡くなった渡部昇一は、日本が南京問題で妥協しなければ、中国は引くと言っていたが、その通りである。